町の中央を吉田川が流れる郡上市八幡町は、郡上城を中心に発展した山間の城下町です。日本三大盆踊りの一つにも数えられる「郡上おどり」は、400年の歴史があり、踊りの期間中、町は多くの観光客で賑わいます。

「奥美濃の小京都」と呼ばれる町並みは、江戸時代の初期、大火で町が焼失した際に整備されたもので、町内には縦横に水路が設けられ、吉田川の水を引いて防火用水、生活用水として活用されています。吉田川は、八幡町の人々の暮らしに深く根ざしており、この町が、川とともに生きる生活文化が息づく「水の都」といわれる所以です。

また、吉田川は豊かな川の恵みをもたらし、特に鮎の名産地として全国にその名を知られています。
長良川へと注ぐ吉田川は、標高1625mの烏帽子岳を源流とし、上流は川幅が狭く、深い森の間を下る22kmの清流です。川底には大小の岩や淵も多く、変化に富み、岩に張り付く苔の生育には絶好の条件が揃っています。その栄養豊富な苔を食べ、育つ鮎は、別名「香魚」と呼ばれるように爽やかな香りを放ちます。

鮎料理といえば、やはり「塩焼き」です。約50年前、富山県の五箇山から民家を移築して開業した「大八」で、美味しい鮎料理がいただけます。
店には二代目の田尻諭史さんとお母様の智津子さんがいらっしゃいました。ご主人の猛夫さん、諭史さんともに鮎漁師で、ご自身で釣った鮎や、信頼する釣り人から持ち込まれる、その日に獲れたばかりの鮎を調理します。扱うのはすべて吉田川か長良川の天然鮎のみ。季節により、アマゴや鰻、肉類では、飛騨牛やイノシシも提供されますが、是非、旬の時季、郡上の鮎をご賞味ください。

諭史さんとともに微笑んでいる男性。この後、ご紹介するフランス料理店「RAVI」のオーナーシェフ山下一宇さんです。実は、お二人、母親同士が同級生ということで、高校時代には、山下シェフも「大八」でアルバイトをしたことがあるそうです。

山下シェフも、この季節には鮎をコースメニューに取り入れています。

山下一宇さんは、1987年生まれ。小学校の卒業文集に、将来は料理人になりたいと書いていたほどの料理好きです。高校卒業後、辻調理師専門学校でフランス料理を学び、渡豪。シドニーの名店「TETSUYA’S」などで修業し、フランス各地のレストランを巡って帰国。東京・五本木の「ボン・シュマン」や名古屋の「ラ・グランターブル ドゥ キタムラ」で研鑽を積み、2020年に地元で「RAVI」を開業しました。
故郷・郡上の自然と人が生み出す食材の素晴らしさに惹かれた山下シェフは、生産者との繋がりを大切に、フランス料理の技法を活かした料理で注目されています。

山下シェフは、この日、鮎をミルフィーユ仕立てにしました。身を三枚におろし、内臓を使ったペーストを焼いて挟み、キュウリ、トマトのジュレ、梅酢で作ったソースを注ぎます。オレガノの花を添えて、華やかに香り立つ一皿の出来上がりです。

吉田川のウグイは「うろこ焼き 酒米リゾット風」に仕立てます。
ウグイは小骨が多いため鱧のように骨切りをし、ウグイの頭骨などで取った出汁を使ったタレを塗りながら炭火で焼きます。リゾットは、酒米の山田錦を鹿のエッセンスを効かせた出汁で煮るそうです。それらをのせた朴葉が、ほんのりと香ります。

肉料理は、ニホンジカのローストです。付け合わせのキノコは奥美濃のキノコ採り名人から入手したもの。ソースは、鹿の骨と軽めの赤ワインを使います。蝦夷鹿に比べて淡白なニホンジカの肉の持ち味を生かしたソースです。

レストランは、モダンな外観で、店内は木の柔らかさが寛ぎの時間を演出してくれます。マダムの佳菜子さんはサービスのほか、お茶菓子を作り、盛付けの補助も担当、忙しい時はお母様の日奈子さんも手伝いに入られるそうです。

吉田川がもたらす「川の恵み」に感謝しながら、その清流を守り、自然との共存を図ってきた郡上の人たち。城下町で育まれた伝統と文化に、フランス料理で新しい風を吹き込む山下夫妻。郡上の町の魅力がまた一つ増えたようです。

RAVI
住所 〒501-4211 岐阜県郡上市八幡町中坪3-4-1
電話 0575-65-5558
https://www.instagram.com/ravi_2020_gujo/
アクセス 東海北陸自動車道郡上八幡ICから車で約10分

大八
住所 岐阜県郡上市八幡町肴町883
電話 0575-65-3709

取材/撮影 奥谷仁