富山市北部に位置する 東岩瀬 は、かつて北前船の重要な寄港地として大いに繁栄しました。旧北国街道(大町通り)沿いには、往時を偲ぶ北前船主・廻船問屋の屋敷が連なり、歴史や文化を学ぶ旅の目的地にもなっています。
富山県在住の写真家・高野裕輔さんが、東岩瀬の「今」を取材しました。

北前船は、江戸時代の中期から明治30年代にかけて、大阪を起点に北海道まで、日本海を経由して行き来した「買積(かいづみ)船」です。これは、ただ物資を運ぶだけでなく、寄港地でも商品を仕入れ、販売する「海の総合商社」のようなものであったといわれます。その寄港地で、貨物の集荷や仲介、管理などをおこなっていたのが廻船問屋です。多くの北前船主は廻船問屋も兼ね、港を中心に町が形成されるほどの隆盛ぶりでした。
東岩瀬は、北前船の寄港地として、最も栄えた町の一つです。しかも、当時の町並みが、これだけの規模で保存されている地区は他に類を見ません。

この地の繁栄を象徴する北前船主・廻船問屋、「旧馬場家住宅」は、国の登録有形文化財です。「岩瀬五大家」の筆頭に数えられ、北陸を代表する「五大北前船主」の一つにも挙げられます。長さ30mにも及ぶトオリニワ(屋内通路)や、富山からの主要な産物として送り出された米、二千石(米俵で五千俵)を収められる蔵も設けられていました。

では、どうして、東岩瀬にこれだけの町並みが残っているのでしょうか。
個人の所有物である建物を揃って保持し続けることには大きな困難が伴います。この町も時代とともに土地を離れる人や代替わりで人口が減り、徐々に活気が失われていったそうです。
このままでは、歴史ある町が廃れてしまうと、保存と活用に動きだされたのが、銘酒「満寿泉」で知られる「桝田酒造店」5代目当主・桝田隆一郎さんです。はじめは1998年頃、元材木商の建物を購入し、改修。蕎麦屋として再生しました。以後、取り壊されようとしている建物があると聞けば、購入・改修を繰り返し、自治体も、電線の地中化工事を行い、この奇跡のような「町づくり」の基礎が整ったのです。
あとは、改修した建物をどう活かすか。
桝田さんは、古い土蔵をリノベーションし、創作の場を求めるアーティストにアトリエを。料理人には、店舗を提供しました。日本料理、フランス料理、イタリア料理、鮨や居酒屋、蕎麦店など、高い技術を持ったシェフ・料理人が次々、東岩瀬に集まってきました。

こちらは、「桝田酒造店」が豪商の屋敷をリノベーションしたテイスティングルーム「沙石」です。ここでは約100種類の「満寿泉」をセルフサービスで利き酒することができます。

北前船は、モノを運ぶだけでなく、文化も生み出しました。
北前船の積み荷としてよく知られるのが北海道の昆布です。良質な昆布によって日本料理の基礎となる出汁が生まれました。富山では、この昆布を煮込んで、同じく北前船で運ばれてきたニシンなどを巻く、「昆布巻き」が食文化として定着しました。「野村商店」では、70年以上継ぎ足されてきた秘伝のタレでしっくり煮込んだ「ニシンの昆布巻き」が名物になっています。(金曜日のみの営業です)

江戸期に建てられた廻船問屋の屋敷を改装し、暖簾を掲げるのが、「ミシュランガイド北陸2021特別版」で二つ星に輝いた「御料理 ふじ居」です。大将の藤井寛徳さんは、金沢や京都で修業し、独立。2019年に、こちらに移転しました。豪商が創り出した広々とした空間で、藤井さんの包丁捌きに見惚れながら、四季折々、富山の海と山の幸をいただきます。

藤井さんも、「北前船がもたらした昆布と、それを活かした先人たちの知恵に深い感慨覚える」とおっしゃいます。この日は、洗練された日本料理で「とろろ昆布のおにぎりに唐墨」を仕上げていただきました。

日本料理の華は椀物と刺身。昆布の出汁が生きる「真薯の椀物」そして、富山ならではの、「ブリの刺身と白えび昆布巻き」です。

お客様が感嘆の声を上げられるのが、ブリの解体です。
この日は、こんな立派なブリが手に入りました。

脂の乗ったブリを、大皿に盛付け、出汁にさっとくぐらせていただく「ブリしゃぶ」。「御料理 ふじ居」さんの、華やかさと繊細さを併せ持つ「ブリしゃぶ」は格別です。

北前船がもたらした繁栄。その歴史の重みを感じながら、この地で生まれた食文化を現代に生かす名料理人。まさに、訪れてみなければ味わえない旅のロマンです。
富山市東岩瀬は、古い町並みの中で、アーティストが創作し、料理人が新しい料理を生み出す、最先端の町でもあるのです。

取材/高野裕輔
文/宮川俊二

東岩瀬町までのアクセス 北陸自動車道 富山西ICから約30分

国登録有形文化財 旧馬場家住宅
住所 富山県富山市東岩瀬町107-2

桝田酒造店 沙石
住所 富山県富山市東岩瀬町93
URL https://www.masuizumi.co.jp/

酒商 田尻本店
住所 富山県富山市東岩瀬町102
URL http://www.tajirisaketen.co.jp/

野村商店
住所 富山県富山市岩瀬大町90-1

御料理 ふじ居
住所 富山県富山市東岩瀬町93
URL https://www.oryouri-fujii.jp/