周囲を山に囲まれ、町の中心部を清らかな肱川が流れる大洲市。
ここには、その地形と気候風土がもたらした,沢山の「宝」があります。
10月から3月にかけ、晴れた朝、小高い丘に上がると、盆地を包む雲海を眺めることができます。

江戸時代から明治にかけての家並みや景観が数多く残ることから,「伊予の小京都」とも言われる大洲市。
この町のシンボルは大洲城です。鎌倉時代末期から戦国時代を経て、各大名の手で、近世城郭が整えられました。現在の天守閣は、平成16年(2004)に復元され、四季の移ろいの中で様々な表情を見せています。

大洲城は、日本で初めて、宿泊ができる城として話題になりました。
「大洲城キャッスルステイ」というプログラム。毎年、何組ものゲストが参加しています。
城下を望む天守閣で、お殿様気分にひたる「城泊」。それは、究極の旅体験と言えるでしょう。

元和3年(1617)から明治維新まで12代にわたり、この地域を治めたのが加藤家です。ご当主が好まれたのが「鮎の黄身寿司」。朝獲れたばかりの鮎を使い、卵の黄身は半日かけて仕上げるそうです。現在、大洲市の「料苑たる井」樽井朗さんが伝統の料理を受け継いでいます。

大洲で必ず訪れてみたいのが臥龍山荘です。肱川沿いに清らかな流れと冨士山(とみすやま)を借景にした数寄屋造り。明治30年頃、貿易商として財を成した河内寅次郎が、構想と建築に10年を費やした別荘です。
自然の造形を生かした設えは、日本建築の粋を集めたもの。
ここでは4月から10月まで(8月は休み)、特別お呈茶体験を楽しむことができます。

夏から秋にかけて肱川では鵜飼いが繰り広げられます。大洲の鵜飼いは、鵜匠の船と客の屋形船が併走する「合わせうかい」という手法で、鵜匠の手綱さばきと鵜の動きを間近で見ることができます。

この土地の自然がなければ生まれないもの、大洲の気候風土の中で醸されてきたのが明治7年創業「梶田商店」の醤油です。

日本料理の有名店はもちろんのこと、ミシュラン3つ星のフレンチシェフからも絶賛される梶田さんの醤油は、酵母や酵素の添加を行わない、100%天然醸造。
大洲の自然ととともに醸されたものです。

今も100年以上前に作られた杉桶を使い、一般には半年の醸造で醤油ができますが、ここでは1年半という長期醸造が行われ、深く円やかな味を生み出しています。

その素となるのが、蔵に住んでいる生きた酵母です。
13代当主の梶田泰嗣さんは、代々、梶田家に伝えられてきたもの、それは「舌」だとおっしゃいます。

自然の中で進行する醸造。それを確かめる人間の「舌」。
ここでしか醸せない、梶田さんでしか捉えられない味。
これこそ、誇るべき「日本の宝」です。

アクセス: 松山空港から車で50分程度。
松山自動車道 大洲ICから市内へ
株式会社 梶田商店
住所: 〒795-0054 愛媛県大洲市中村559番地
URL: https://www.kazita.jp

文/ 宮川俊二
撮影/ 河野達郎