西は伊勢湾、東は知多湾と三河湾に挟まれ、南は伊良湖水道から太平洋に通じる知多半島。その西岸に位置する常滑市は、日本六古窯の一つ常滑焼の産地として、また、2005年に開港した「中部国際空港 セントレア」がある町として知られています。伊勢湾に臨む海辺は、格好の撮影スポットです。

「知多半島が育んだ産物が、ここで一つになる」・・・こんなコンセプトを掲げ、2017年、常滑市出身の渡邊大佑シェフが、地元の海や山の恵みをフランス料理の技法で表現する「ル クーリュズ」を開業しました。今、その野性味あふれる料理が注目を集めています。

レストランで使われる「知多半島が育んだ産物」とはどんなものでしょう。渡邊シェフと奥様の香奈さんのご案内で、生産者の元を訪ねてみました。

この町の歴史を語る上で、欠かせないのが平安時代末期(12世紀前半)まで歴史を遡る常滑焼です。町を歩くと、明治時代から日本の町作りを支えた近代土管があちこちに見られ、主産地であった往時を偲ばせます。
一方、中世から各時代を通して優れた器を生み出し続けた、工芸品としての常滑焼の伝統も現代に脈々と受け継がれています。
渡邊シェフが料理を盛付けるのも、もちろん常滑焼。「佳窯」久田貴久さんの作品も、その質感が、料理の力強さと響き合います。

知多半島は温暖な気候に恵まれ、農業も盛んです。こちらは、全国のレストランからたくさんの注文が入る「me エディブルフラワー」真野文宏さん。完全無農薬の自家製堆肥を使った土で育てるため、水耕栽培のものに比べて圧倒的に長持ちするそうです。渡邊シェフは、料理の飾りというより、それぞれの味わいを生かした調味料として使っています。

竹林と原木椎茸。実は、とても相性が良いのだそうです。「しいたけ屋 平松」の平松栄毅さんは、35年前から栽培を始め、現在5万本のクヌギの原木を竹林に寝かせています。竹は生長が早く、椎茸に必要な日陰を作り、台風などの災害から守ってくれます。原木は、椎茸栽培に使われた後、朽ちて土に帰り、そこから美味しいタケノコが生えてくるというわけです。肉厚の椎茸は、高価格で主に東京へ出荷されています。

野菜と言えば、渡邊シェフの農園も忘れてはなりません。海のそばの畑で、レストランで使う野菜を栽培。都会のシェフが羨むような素晴らしい環境です。

「風間さんの魚で、改めて魚の美味しさを知りました」と話す渡邊シェフ。「風間水産」代表の風間亮祐さんは、東日本大震災のボランティアで宮城県石巻に赴いた際、現地で漁の手伝いをしたことがきっかけで、そのまま宮城の漁師になりました。「大森式神経締め」の大森圭さんとの出会いから魚の目利きや神経締めの技術を学び帰郷、 南知多町師崎港で水産会社を創業したという異色の経歴の持ち主です。渡邊シェフは、風間さんが選んだ魚で「今日の魚料理」を考えると言うほど、全幅の信頼を寄せています。

清酒「白老」で知られる「澤田酒造」澤田英敏さんも渡邊シェフの良い相談相手です。常滑市は海の近くですが水質がとても良く、ミネラル豊富な水を生かして古くから酒造りが盛んです。「澤田酒造」は、嘉永元年(1848年)創業。渡邊シェフもこの湧き水を料理に使っているそうで、毎朝の水汲みがシェフの日課になっています。また、料理に使う「塩麹」を作るため、お米を持ち込んで麹菌を植え付けてもらうなど緊密に連携していらっしゃいます。

こうして、一つになった知多半島の産物が、料理に生まれ変わるのが、渡邊シェフのレストラン。お隣には2024年6月、パンなどのテイクアウト専門店「プティ メゾン」もオープンしました。

ある日のコース料理、食材だけでなく、常滑焼の器も併せてご覧ください。

地域の産物をまるごといただく「知多半島ガストロノミー」。素敵な渡邊夫妻が皆様を迎えてくださいます。

住所 愛知県常滑市熊野町3-143-1
店名 ル クーリュズ
電話 0569-56-9403
URL https://le-coeuryuzu.com
アクセス 東名高速道路名古屋南ICから知多半島道路経由で30分程度

取材・撮影 奥谷仁