群馬県の県庁所在地・前橋市の目抜き通りに不思議な看板のようなものが幾つも掛かった建物があります。
実は、これ、アメリカのコンセプチュアル・アーティスト、ローレンス・ウィナー氏の「作品」なのです。
ここは、創業300年の歴史を持ちながら2008年に惜しくも廃業となった老舗旅館「白井屋」を、現代アートが体感できる空間として再生し、2020年に開業した「白井屋ホテル」です。
このプロジェクトには、前橋市が進める「めぶく。」をテーマにした、街の活性化活動に賛同する多くのアーティストが参加しています。

藤本氏設計の、川の土手のような新しい建物
藤本氏設計の、川の土手のような新しい建物

ホテルは、元の旅館と建築家・藤本壮介氏が設計された建物の新旧2棟あり、25室すべてに世界的クリエーターによるアート作品が展示されていて、デザインのクリエイティビティ溢れる空間になっています。

ここはイギリスを代表するプロダクトデザイナー、ジャスパー・モリソン氏による木の温もりが感じられる部屋です。
夕刻になると、窓の外では、むき出しになった配管が光り始めます。
これは金沢市の21世紀美術館に恒久展示されている「スイミング・プール」でも知られる、アルゼンチンのレアンドロ・エルリッヒ氏がデザインした「ライティング・パイプ」です。

このホテルでは、夜になると、まるで、美の妖精たちが「自分たちの時間がやってきたよ」と囁きあい、光になって戯れるように、色彩の異空間が現れます。

光のアートは、ホテルの様々な場所で展開されています。

このプロジェクトに深く関わってきた現代美術作家・杉本博司さんと建築家・榊田倫之さんの「新素材研究所」が手がけた「真茶亭」の空間も見逃せません。
バーテンダーとして世界の名店で活躍した木村堅さんが、お酒やお茶を振る舞ってくださいます

アートとともに注目を集めているのが、「上州キュイジーヌ」を謳い、群馬の食をイノベーティブな料理として昇華する「ザ・レストラン」です。
シェフの片山ひろさんは、群馬県生まれ。東京の「帝国ホテル」やフランスで修業後、地元に帰り、フランス料理店を経営していましたが、この再生プロジェクトに共鳴。開業まで、東京の「フロリレージュ」やベルギーなどで再度研鑚し、シェフに就任しました。

片山シェフのスペシャリテ「Okirikomi」は、粉物文化の群馬を象徴する郷土料理。これを片山さんは、イノベーティブな一皿に仕上げています。

ホテルに宿泊すると、夜食で、オリジナルの「Okirikomi」をいただくことができます。

ある日のディナーは、このようなメニューでした。

ソムリエ・児島由光さんも群馬県の出身。東京のレストランを経て地元に帰り、ワインのペアリングやノンアルコールドリンクの開発に努めています。

こんな地元愛がいっぱいの皆さんが迎えてくださるレストランです。

現代アートとイノベーティブな食が出合う、この場所は、前橋の街に新たに「めぶく。」デスティネーション・ホテルなのです

アクセス 関越自動車道 前橋ICから車で15分程度。
住所 〒371-0023 群馬県前橋市本町2-2-15
白井屋ホテル
URL https://www.shiroiya.com

文/ 宮川俊二
写真/ 小松勇二