曹洞宗、大本山永平寺の門前町、永平寺町は、白山の麓を源流とする九頭竜川の伏流水を自然の恵みとして、古くから酒造りの町としても知られています。
この銘醸地を代表する黒龍酒造を擁する石田屋二左衛門株式会社が、2022年6月、酒を中核として福井や北陸の文化の発信拠点として開業したのが「ESHIKOTO」です。
「えし」は、昔の言葉で「良い」を意味し、この名称には、福井県にとって「良いこと」をしていこう、この場所が永久(とこしえ)に続きますようにという願いが込められています。

九頭竜川沿いの広大な敷地に展開する複合施設では、ここでしか味わえない、黒龍酒造の直営店、石田屋オリジナルブランドを試飲して購入することができます。
文化元年(1804年)創業。8代目蔵元である水野直人さんは、本社から少し上流に位置する、この地に立った時、ワインの銘醸地・ブルゴーニュを連想し、また、シャンパーニュ地方の有名ドメーヌのように、醸造・熟成だけでなく、日本酒文化を国内外に発信する拠点にしたいと考えられました。
瓶内二次発酵によるスパークリング日本酒や黒龍の酒粕を蒸留して水楢(みずなら)の洋樽で熟成させたスピリッツの開発など、今、その新しい取り組みに世界の目が注がれています。

この敷地内に2024年11月、オープンしたのが「歓宿縁 ESHIKOTO」です。「歓宿縁」(かんしゅくえん)とは、仏教用語で、「滅多にないご縁を歓ぶこと」を意味し、豊かな環境のなかで、ここでしか、いただけない食や酒を共に味わい、歓びを分かち合う空間が創り出されました。

かつて棚田であったなだらかな斜面に配されたヴィラ8棟には、全室に温泉が引かれています。半露天風呂で、九頭竜川や対岸の田園風景を眺めながら湯に浸かると、心身ともに癒やされることでしょう。

料理を担当するのは、ミシュランガイド北陸2021 特別版に一つ星として掲載された小松辰平さんの「日本料理 えん」(旧店名「馳走 えん」)と、フランス発祥のレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」でも高評価を得ているフランス料理店「cadre(カードル)」の濱屋拓巳シェフです。
小松さんは、「八寸」に、蕗やこごみ、ホタルイカやヘシコといった北陸の山海の幸を彩り鮮やかに盛付けます。

濱屋さんは、フランス料理にブランドの「ふくい甘えび」やあわら市「田嶋牧場」のモッツアレラチーズなどを用い、福井のテロワールを表現しています。

二人とも、越前蟹をはじめとする特産物や北前船の寄港地で育まれた昆布文化、永平寺の精進料理など、福井が誇る食の精髄を日本料理やフランス料理に落とし込み、「歓宿縁」ならではの料理を生み出しています。
黒龍酒造の銘酒と合わせていただけば、この地の自然をすべて取り込むような、料理と日本酒の至高のマリアージュが楽しめるでしょう。
食事の後は、「Bar 刻(トキ)」のスピリッツとフルーツのカクテルで、饗宴の余韻を楽しみます。

朝は、伝統食が生かされた 「Apéro & Pâtisserie acoya(アペロ&パティスリー アコヤ)」の食事で、さらに「福井」を味わうことができます。
日本を代表する銘酒とオーベルジュという、比類のないコラボレーションは、寛ぎだけでなく、文化の伝承と創造という「えしこと」を「とこしえ」に生み出していきます。

ESHIKOTO
住所 〒910-1202 福井県吉田郡永平寺町下浄法寺第12号17番
URL https://www.eshikoto.com
アクセス 中部縦貫自動車道 永平寺参道ICから車で約10分。
JR福井駅から車で約25分

文/宮川俊二
撮影/奥谷仁