標高1000mに及ぶ山々に囲まれた、旧利賀村(現南砺市)の集落跡に、2000年12月に移転。オーベルジュ・レストランとして生まれ変わった「レヴォ」の「進化」は、多くの食通から「深化」と評されています。
冬には背丈を越える積雪に見舞われることもある利賀村は、急激に過疎化が進み、荒れた山野が各所に残されました。しかし、そこは谷口英司シェフにとって、食材の宝庫でもありました。
この地にスタッフとともに移り住み、四季を繰り返すうち、谷口シェフの心と身体に利賀村の土・水・空気が染み込んでいったのでしょう。
その料理は、この大きな自然の中で自ずと「深化」し、「進化」を続けているのです。
料理のみならず、オーベルジュ・レストランとしての先進性、独創性において、日本の最先端をいく「レヴォ」。その魅力を、シェフの信頼が厚い富山市八尾町在住の写真家・高野裕輔さんに取材していただきました。

冬、谷口シェフの1日は除雪作業から始まります。2025年は、特に深い雪に見舞われました。公道から急斜面を下り、利賀川に架かる橋を渡ってオーベルジュまで、村内に住むスタッフが安全に出勤し、お客様を無事に送迎できるよう、巧みに除雪車を操ります。

山里に遅い春が訪れる頃、残雪の間から蕗の薹が顔を出します。その香りと「苦味」は、谷口シェフの料理の重要なエッセンスの一つです。短い季節の移ろいの中で得られる貴重な素材を、日本やフランスで巨匠の薫陶を受け、自ら磨いた技術を生かし、1年分の「蕗の薹オイル」を作っていきます。
スペシャリテの一つ「大門素麺」に使われるオイルには、早春の精気が取り込まれているのです。

「思索」と「試作」。里山ガストロノミーといえば、自然の素材をなるべく手数少なくテーブルへ、というイメージがありますが、谷口シェフのそれは、あくまで「料理人として」ということが前提になります。野菜も信頼する農家のものを主に、自家農園では「料理を作るように」土作りから始めます。酵母を混ぜて土壌をふかふかにし、pHもコントロール。料理人の視点で作られた土から育った野菜は、「レヴォ」ならではの逸品です。
谷口シェフは、広くとられた厨房の一隅で「思索」し、イマジネーションを膨らませ、常に「試作」を繰り返しています。

利賀村の四季の中で、新たな発見、気づきを重ね、谷口シェフの料理は、より自由度を増しています。しかし、それが器に盛られる時、むしろシンプルに見えるのは、無駄をそぎ落し、究極の美味を求めるシェフの五感がそこに凝縮されているからでしょう。2025年、ある日のコース料理です。

「レヴォ」には3つの宿泊棟とサウナ棟があります。自然の中で美食・美酒に浸り、目覚めの朝には、利賀村に伝わる保存食を取り入れた郷土料理が待っています。ここには、厳しい環境の中で息づく地域の食へ、谷口シェフのリスペクトが込められています。

奥深い山間地に拠点を設けながら、谷口シェフは、日本の各地や海外にも足を延ばし、また、利賀村に意欲的なシェフを招いてのコラボレーションも度々企画しています。
台湾「Sinasera24」(現在は閉店)のNick Yangシェフの海の料理との共演。
東京・新橋で居酒屋という業態をとりながら、フランス修業で身につけた技術を生かした料理で、絶賛されている「新橋 工」中安工シェフと肉のマエストロ「精肉店サカエヤ」新保吉伸氏との異色の組み合わせなど、共に創ることにより、新たな価値を生み出しています。

「レヴォ」にとって最も重要なのは、食材提供者、猟師、器や布のアーチスト、日本酒やワインの生産者、村の人など、「チーム・レヴォ」と呼ばれる皆さんの存在です。開店3周年を記念した「感謝祭」には80人もの人が招待され、改めて、このオーベルジュ・レストランが、いかに多くの人に支えられているのかが分かります。

谷口シェフは、「ミシュランガイド北陸2021」で二つ星を獲得。「ゴ・エ・ミヨ」では2017年と2022年に2度も「今年のシェフ賞」を受章するなど、現代日本を代表する料理人の一人です。「レヴォ」は、最先端の前衛的地方料理と、その「進化」を体感するために、何度も訪れるべきオーベルジュ・レストランといえるでしょう。

「レヴォ」
住所 〒939-2518 富山県南砺市利賀村大勘場田島100番地
電話 0763-68-2115
URL https://levo.toyama.jp
アクセス 東海北陸自動車道 五箇山ICから約30分

文/宮川俊二
撮影/高野裕輔