秋田・山形両県に跨がる鳥海山は、標高2236mの活火山。山頂から僅か16kmで海に至る稀な地形をなしています。その麓に位置する、にかほ市は人口2万1千人余り、鳥海山がもたらす自然の恵みを享受する食材の宝庫です。
この街から、「秋田の食」を発信しているのが、渡邊健一シェフとソムリエールの村上清香さん。秋田県出身の渡邊さんは、フランス料理の巨匠・𠮷野建シェフのもと、銀座やパリの厨房で研鑽を重ね、村上さんは都内の様々な業態のお店を経験したプロフェッショナルです。

そんな二人に、大手企業の迎賓館であった建物を活用してほしいという話が持ち込まれました。
1980年代初めに建てられた日本家屋は、広々とした庭園を擁し、内部は一本木の柱や梁が目を引く和モダンの趣ある空間です。
一目で気に入った二人は、この建物を、料理やワインサービスを中心に、心身ともに癒やされる場所にしたいと、2018年4月、「レメデ ニカホ」を開業したのです。
店名の「レメデ」には、自然の力で治癒を図るという意味があります。
主となるテーマは「地讃地昇」。
渡邊シェフは、「土地の恵みを讃えながら、お客様はもちろん、生産者や地域社会に幸せな道筋を創り出す存在でありたい」と考えています。

ある日のコース料理をご覧いただきましょう。
渡邊シェフは、クラシックからモダンまで、フランス料理の王道を踏まえて、にかほならではの料理を生み出しています。

渡邊さんが、この地でレストランを開く際、一番苦労したのが、食材の確保でした。
産物は豊富ですが、街に大きな市場がないため、生産者から直接食材を仕入れなければなりません。シェフは自ら秋田県内全域を回り、それが優れた食材提供者との出会いに繋がっていきました。
皆さんの思いは一つ、「秋田の食をもっとアピールしたい」。
渡邊シェフは、こうした活気溢れる生産者のもとをしばしば訪ねています。

定置網の漁船に乗る佐々木一成さんは1989年生まれ。父親もにかほの漁業者で、神奈川県の水産系大学に進学。首都圏の鮮魚店に就職して、魚の目利きを学びながら、秋田の魚介が首都圏に出回っていないことを痛感したそうです。今では、漁だけでなく、加工場を作り、魚の直販にも力を入れています。

鳥海山や山麓で地中に染み込んだ水は、栄養豊富な伏流水となり、沖合の海底から湧き出します。大量に発生するプランクトンを求める小魚、それを目がけて集まる鮭や鱈など、ここは季節の魚の好漁場となっているのです。
佐々木さんは、魚を獲ると、すぐに船上放血(血抜き)をして出荷。こうした鮮度を保つ仕立てを施し、魚の価値の見直しに繋げたいと努めています。

鳥海山の麓、40万㎡(東京ドーム100個分)という広大な「上の山放牧場」を中心に、繁殖農家を営む渡邊強さんは、1999年生まれ。輸入飼料に頼らない自給自足の畜産経営と、年ごとに荒れていく放牧場の再生に奮闘しています。
今、渡邊さんが取り組んでいるのが、全国でも珍しい「放牧経産牛」の販売です。冬の間、牛舎で暮らした牛たちは、春の訪れとともに標高500mを超える放牧場まで6㎞の道を登り、春から秋まで、ゆったりと草や木の葉を食みます。
雄大な自然の中で過ごし、お産を経た牛の美味しさを感じとって欲しい、若き畜産家は、日々、命と向き合っています。

渡邊シェフは、にかほの自然の中で食事を楽しむDining With a Viewというイベントも企画しています。日本海の夕景を望みながらの、何とも贅沢なディナー。次回の開催時には、皆様もぜひご参加ください。
今、渡邊シェフ(1979年生まれ)と意欲ある生産者たちが、「秋田の食」を変えようとしているのです。

住所 〒018-0402 秋田県にかほ市平沢字家ノ後49-1
店名 レメデ ニカホ
電話 0184-74-7065
URL https://remede.jp
アクセス 日本海東北自動車道の仁賀保ICから車で2分(900m)

文/宮川俊二
撮影/伊藤靖史