冬の間、深い雪に覆われる青森県津軽地方。厳しい気候のもと、人々は雪国ならではの暮らしの知恵を生み出し、地域の文化を育んできました。一方で、多くのミネラルを含んだ雪は、大地を潤し、豊かな恵みをもたらしてくれます。
季節の移ろいの中で、自然界の一瞬の煌めきを感じ取り、それを料理に、「自分の言葉」として表現する料理人がいます。
茶寮「澱と葉」のシェフ・藤田潤也さん。そして、パートナーでリネン作家の岡詩子さんです。

藤田さんは1993年青森市生まれ。八戸市で育ち、高校の食物調理科を卒業後、関東のレストランに就職します。しかし、規模の大きな厨房の流れに馴染めず帰郷。八戸市のビストロワインバーでワインやお茶を習得し、2017年、岡さんの故郷、北津軽郡鶴田町で1日1組完全予約制の「澱と葉」を開きました。
「ワインは底に澱が、お茶は葉が残るように、私たちはお客様の『美味しい』を支える澱と葉のような存在でありたいと思っています」と、お二人。
「自分の料理とは」「青森らしさとは何だろう」・・・模索を続けた藤田シェフの足は、岩木山と、その裾野に広がる津軽の自然に向かっていきました。勢いのある、瑞々しい野菜や山菜が藤田さんの料理を彩ります。

畑では詩子さんのお父様、岡護(1954年生)さんが養蜂を再開されていました。蜜蜂がたくさんの草花から集めた「百花蜜」と津軽特産リンゴの花の蜂蜜は、「澱と葉」の料理にも使われていますが、たくさん採れた時は瓶詰めして販売し、好評だそうです。
蜜蜂は、植物や果樹の受粉を手助けし、自然の循環にとって大切な役割を担っています。

収穫したばかりの食材を、その日に料理できることが、藤田さんの大きな強みです。皮や茎など、料理に使わない部分は、発酵や乾燥に回します。使い道が分からない部分も保存しておくと、ある日、ふと思いついたり、味わいが変わって美味しくなっていたりします。「すべてを使いきる」を基本に、「普段、目を向けられないものにも価値がある」、それは人間社会にもあてはまることだろう、と藤田さんは考えています。

コース料理は、3杯のお茶から始まります。お客様にゆったりしていただくと同時に、味覚に集中する心を整え、「料理人とゲスト」から「私とあなた」という関係性へ、流れる時間と空気を変えていきます。お茶と料理を通して、一つの場を作る、一体型の表現が藤田さんの目指す世界です。

この日のメニューから一部をご紹介しましょう。

料理に欠かせないのがワインです。津軽のテロワールを追い求める藤田シェフに心強い仲間が増えました。「つがるワイナリー」の皆さんです。この地方では、アメリカ・ニューヨーク州原産のスチューベンという葡萄品種が50年くらい前から栽培され、日本一の生産量を誇っています。2017年に創業されたワイナリーを国内外で経験を積んだ造り手やソムリエたちが2023年に引き継ぎ、伝統的なワイン造りとともに、特産のリンゴや桃、シェリー樽などを活用した「クラフトワイン」で新境地を開いています。この日は、ソムリエールの行木泰子さんと、藤田さんの料理とワインのマリアージュについて、話が弾みました。

「自然からたくさんのモノをいただくように、この地で私たちが創り出す料理が、お客様の中で、何かを得るきっかけになればと思います」
岩木山の麓に広がる津軽平野。この地ならでは、藤田さん、岡さんならではの、皿の上の物語が、さらに大きく展開されようとしています。

澱と葉
住所 〒青森県北津軽郡鶴田町鶴田前田10-6
問い合わせ(予約など)
oritoha.siki@gmail.com
https://www.instagram.com/oritoha/
アクセス 津軽自動車道 五所川原ICから約15分

つがるワイナリー
住所 〒038-3503 青森県北津軽郡鶴田町鶴田小泉335-1
電話 0173-23-5703
URL https://www.tsugaru-winery.com
アクセス 津軽自動車 五所川原ICから約10分

文/宮川俊二
撮影/齋籐崇